くも膜下出血の看護のポイント
再出血
今日は朝緊急入院で来たくも膜下出血の患者さんを受け持つよ。でも、なんでくも膜下出血の患者さんは暗室管理が必要なんだろう?
くも膜下出血の一番怖い合併症は再出血だよ。再出血することでかなり予後が悪くなるので、光や音による刺激を避けるために、手術までは暗室管理が必要になることがあるんだ。瞳孔所見確認のためにライトを当てるのも医師に確認してから行おう
一度破裂した脳動脈瘤は高確率に再破裂を来たします。再出血はくも膜下出血後から24時間以内、とくに6時間以内が多いことが分かっています。再破裂では予後が悪くなるため手術までの管理として再出血を防ぐことが重要です。
再出血予防のため血圧コントロールや鎮静管理を行う必要があります。疼痛による興奮や血圧上昇は出血リスクを高めるため疼痛薬や鎮静薬を使用し、血圧コントロールを行って再出血を予防します。
Hunt and Kosnik分類のGrade3までは早期手術を行い、Grede4以上の症例では保存的療法によりスパズム期を乗り越えた後に行う待機手術が行われています。
重症度 | 基準徴候 |
Grade 0 | 未破裂動脈瘤 |
Grade 1 | 無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直 |
Grade1a | 急性の髄膜または脳症状を見ないが、固定した神経学的失調のあるもの |
Grade2 | 中等度から重篤な頭痛、項部硬直を見るが、脳神経麻痺以外の神経学的失調をみない |
Grade3 | 傾眠傾向、錯乱状態、または軽度の巣症状を示すもの |
Grade 4 | 混迷状態で中等度から重篤な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある |
Grade5 | 深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示すもの |
再出血予防のための看護
- 安静にし音や光の刺激を避ける(ペンライトでの瞳孔の観察も医師に確認)
- 鎮静・鎮痛管理
- 血圧コントロール
頭蓋内圧亢進を避けるために腹腔内の調節も重要になります。緩下薬を使用した排便コントロールや尿道カテーテルを使用し、努責や膀胱内圧充満による頭蓋内圧亢進を避ける必要があります。
脳血管攣縮(スパズム)期の看護
脳血管攣縮(スパズム)とは
脳動脈破裂によりくも膜下腔に広がった出血が原因で、出血にさらされた脳血管が狭窄・閉塞に至ることを脳血管攣縮(スパズム)と言います。
スパズムについては原因が分かっていないことが多いため発生を完全に抑える治療法がありません。
また、一度生じたスパズムによる症状を回復させることは困難です。そのため、スパズムになりやすい状態を避けることが大切なポイントになってきます。
スパズムになりやすい状態を回避するためのポイント
- 点滴負荷により循環血液量を増加させる
- 昇圧剤などで人為的に高血圧を保つ
- 血液の粘調度を下げる血液希釈を行う
神経所見の観察
発症4日~14日はスパズム期となり、血管攣縮が生じやすい時期です。血管攣縮が生じると血管が細くなり血流が滞るために脳梗塞と同じような状態となります。
血管攣縮ではどの血管にも生じるリスクがあるため、他の血管領域の症状にも注意しよう
前大脳動脈(ACA)
- 片麻痺(下肢に強い)
- 感覚障害(下肢に強い)
- 精神活動低下(注意障害・遂行機能障害)
- 優位側:失語
- 劣位側:無動性無言
中大脳動脈(MCA)
- 片麻痺(上肢に強い)
- 感覚障害(上肢に強い)
- 優位側:失語、失認、失行
- 劣位側:半側空間無視、着衣失行、半側身体失認、相貌失認
MCA領域では意識障害や麻痺が無くても失語が出ることがあるので見逃さないように注意して観察しよう!
後大脳動脈(PCA)
- 同名性半盲
- 劣位側:相貌失認
- 優位側:純粋失読
前脈略叢動脈(AchA)
- 片麻痺
- 半盲
- 半側感覚障害
スパズムにより脳が虚血する時間をなるべく少なくするためにも、スパズムの発生を早期発見し見逃さないことが重要です。早期発見で対応可能な場合があるため、いつもと違うと感じたらすぐに医師に報告します。
スパズム期の循環管理
先輩、Aさんの収縮期血圧が140mmHgで高いのですが、降圧指示がないんです
スパズム期は脳虚血を防ぐために血圧をあえて高めに維持するよ!
スパズム期ではIn-Outバランスに注意して観察する必要があります。脱水などによる循環血液量の減少はスパズムを引き起す恐れがあるため、プラスバランスになるように点滴負荷を行います。
くも膜下出血では体が強いストレスに晒されます。抗利尿ホルモンや心房性Na利尿ホルモンにより中枢性塩類喪失症候群という状態となることがあります。Naと水分が同時に失われた結果、低ナトリウム血症と脱水が発生します。低ナトリウム血症では、浸透圧が低下することで脳に水分が移動しやすい状態となるため脳浮腫を生じやすい上に、脱水により循環血液量が減少すると脳血管攣縮のリスクも高まります。
また、食事摂取量の観察も重要です。食事が開始されると点滴負荷の量を減らしていきます。この時に食事摂取が進まなかったり飲水量が少なかったりするとアウトバランスに傾くため注意が必要です。
スパズム期の循環管理のポイント
- In-Outバランスの観察を行い脱水にならないように注意する
- 中枢性塩類喪失症候群では脱水と低ナトリウムが生じるため、脳浮腫やスパズムが起こりやすい
- 食事摂取量を経時的に確認し、摂取量が少ないときは点滴負荷を相談する
くも膜下出血による合併症
正常圧水頭症
正常圧水頭症の症状
くも膜下出血を生じると血液によりくも膜下腔が閉塞し脳脊髄液の通過障害が生じます。くも膜下出血の慢性期には20%の頻度で水頭症が発症します。
水頭症の3徴候
- 認知症状:物忘れ、自発性低下、無関心
- 歩行障害:すくみ足、歩幅減少、足挙上低下
- 尿失禁:無関心による失禁、トイレに間に合わないため失禁
正常圧水頭症の治療
急性水頭症の場合には、急激な髄液の貯留により頭蓋内圧亢進をきたすためドレナージを行います。
慢性期で生じる正常圧水頭症では、シャント術を施行します。
たこつぼ型心筋症
くも膜下出血によるストレスによりカテコールアミンが過剰に放出されることでたこつぼ型心筋症を起こすことがあります。左室心尖部に原因不明の収縮しない領域が認められ、「たこつぼ」のような形を呈します。治療は対処療法で心不全の治療に準じます。一過性で2週間~数か月で正常化すると言われています。
神経原性肺水腫
カテコールアミンの過剰放出により生じます。循環血液が肺循環へと流入するために神経原性肺水腫が起こるとされています。治療は通常の肺水腫に順じてIn-Outバランスを管理します。
胃潰瘍
くも膜下出血によるストレスにより胃潰瘍を生じやすいです。合併しやすいため予防的にプロトンポンプ阻害薬などの投与を行うことがあります。
SIADH(抗利尿ホルモン分泌異常症候群)
くも膜下出血による侵襲で抗利尿ホルモンが過剰に分泌され、腎臓で水の再吸収が増加し、水分貯留により希釈的に低ナトリウム血症が生じます。治療として水分制限を設けたり食塩の負荷を行います。
CSWS(中枢性塩類喪失症候群)
ヒト心房性ントリウム利尿ペプチド、脳性ナトリウム利尿ペプチドが過剰に分泌されることで腎臓でのナトリウム再吸収を抑制し、ナトリウム喪失による低ナトリウム血症を引き起します。治療として水分とナトリウムの補充を行います。
くも膜下出血の治療
くも膜下出血の治療は再出血の予防を目的とした手術を行います。外科的治療と血管内治療があります。
開頭動脈瘤頸部クリッピング術
開頭して脳動脈瘤の頸部をチタン製のクリップで挟むことで瘤への血流を遮断します。
脳動脈瘤コイル塞栓術
開頭する必要はなく、大腿動脈から血管の中にカテーテルを入れて術野にアプローチします。局所的麻酔でも施行可能なため、侵襲が少ないです。
動脈瘤に人工的な物質を詰めて固まらせることで、動脈瘤が破裂するのを防ぎます。コイル塞栓後は動脈瘤内に血栓ができて自然に固まります。
術後の観察ポイント
ドレーン管理
種類 | 目的 | 挿入部位 |
脳室ドレナージ | 血液の排液 髄液の排液で水頭症を防ぐ 脳圧を下げる | 側脳室前角 |
腰椎ドレナージ (スパイナルドレーン) | くも膜下出血の術後に腰椎の血液を排出させて髄液の循環障害を防ぐ 頭蓋内圧のコントロールはできない。 | 腰椎 |
皮下ドレナージ | 頭の皮下の血腫を除去する | 皮下 |
ドレーン挿入中の観察ポイント
- 排液の性状と量
- 流出状態
- ルートの屈曲と閉塞の有無
穿刺部の観察
コイル塞栓術では動脈からアプローチするため、術後穿刺部の観察が大切です。
術後は穿刺部からの出血や血腫の有無を観察します。術前から足背動脈触知の有無、しびれを観察しておき、術後に大腿動脈の閉塞がないか注意しましょう。コイル塞栓術により血栓が形成されることがあります。脳に血栓が飛ぶことで脳梗塞を起こすこともあるので、意識障害や神経学的所見を経時的に観察します。
術後出血
術後出血を来たすと出血により頭蓋内圧亢進します。頭蓋内圧亢進により神経脱落所見が表れることがあるため、経時的な変化がないか観察をします。
くも膜下出血では手術の前から慢性期まで幅広い合併症があるんだ!
意識障害がある患者さんでは訴えることができないので、経時的に観察をして少しの変化もも逃さないことが大切だよ