ICUや循環器病棟ではよく出会う僧帽弁置換術。
同じ弁膜症でも狭窄症・閉鎖不全症とそれぞれ病態が違います。
僧帽弁狭心症と閉鎖不全って何が違うの?
僧帽弁を手術するのは同じだけど、手術後の観察項目も違ってくるの?
この記事では弁膜症のそれぞれの特徴や手術前後での看護のポイントをまとめていきます。
MVPとMVRの違い
弁形成術(MVP)とは
弁形成術(MVP:mitral valve plasty)とは自分の僧帽弁をそのまま保存した手術になります。弁の緩んだ部分を縫合・切除したり弁輪を補強したり、弁を引っ張る腱索に人工腱索を移植することで自分の弁の形を整える手術になります。
弁置換術(MVR)とは
弁置換術(MVR:mitral valve replacement)とは弁自体を取り換える手術です。弁の状態が悪いときには自身の僧帽弁を温存することが難しいため弁置換術を行います。交換する際には機械弁・生体弁の2種類があります。
生体弁と機械弁では、高齢者にはメンテナンスが楽(抗凝固療法が3か月程度)な生体弁、若年者には耐久性重視の生体弁を推奨しているよ。ただ、ワーファリンは胎児奇形の原因となるため妊娠を望む女性には生体弁を使用しているんだ。
僧帽弁狭窄症(MS)・僧帽弁閉鎖不全症(MR)の違い
僧帽弁狭心症(MS)
病態生理
MSはリウマチ熱の後遺症、最近は加齢や透析による石灰化が原因であることが多いです。石灰化することで弁が開きにくくなら左心室への通路が狭窄することによって、血液を送り出す際に左心房に圧がかかり(左心房負荷)、血流が悪くなるため左心室への血液が少なくなります。左心房は肺に繋がっているため、左心房負荷により肺うっ血が起きて肺高血圧、肺水腫と進行すると右心不全の症状が起きやすいです。また、左心房に負荷が生じることで心房細動も生じやすくなります。
症状① 左心房の拡大による心房細動
狭窄によって左心房から左心室への血流が悪くなるため、左心房に血液がうっ滞することで左心房圧が上昇します。左心房の容量が増え、左心房が拡大すると心房細動を生じやすくなります。心房細動ではサイナスリズムの時よりも20%ほど心拍出量が減るため、心不全を悪化させるリスクがあります。
症状② 左心房圧上昇による肺高血圧症
左心房は肺静脈とつながっているため、左心房圧上昇の影響が出やすくなります。左心房に血液がうっ滞すると、左心房へ血液を送り出しにくくなるために肺もうっ滞してしまします。その結果、肺高血圧症となり左心不全症状が生じます。肺動脈がうっ滞すると右室圧も上昇するため、右心不全症状も引き起こされます。
症状③ 心拍出量低下にともなう循環不全
僧帽弁狭窄症の観察ポイントをまとめたよ
- 左心房の拡大による心房細動に注意
- 心房細動では血流が20%ダウンしてしまうため
- 血栓による脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすリスクがある
- 肺うっ血に伴ったうっ血性心不全症状に注意
- 右心不全症状(頸静脈怒張、肝腫大、浮腫、食欲不振、吐気・嘔吐)
- 左心不全症状(呼吸困難、肺水腫、起座呼吸、泡沫様痰)
- 心拍出量低下に伴う症状
- チアノーゼ
- 末梢冷感
- 易疲労感
- 尿量減少
- 血圧低下
僧帽弁逆流症(MR)
MRは弁が閉まらなくなるため大動脈へ流れるはずの血液の一部が左心房に戻ってきてしまい左房負荷がかかり、MSと同じように右心不全や心房細動が生じやすくなります。また、長期間に渡って進行すると、左房からの血液流入により左心室の容量も増えてしまい遠心性肥大に繋がることがあります。
同じ僧帽弁の疾患なのに、MRでは左心室が広がってしまうんですね
急性発症の場合は左室・左房の拡大はほとんどないよ。臨床では多くが慢性だけど、心筋梗塞による乳頭筋断裂などによって急性発症する場合もあるよ。急性の場合は進行が速いため入院時にはすでに急性心不全になってる可能性が高いので、患者さんが慢性なのか急性なのかカルテで確認しておこう!
- 急性発症の場合は呼吸状態に注意しよう
- 急性MRでは労作時の息切れが最も多く起座呼吸やショックがみられる
- 慢性の場合は代償機能のため自覚症状が現れにくい
- 肺うっ血に伴ったうっ血性心不全症状に注意
- 左心室の遠心性肥大に伴った心機能低下・LOSに注意
- 末梢冷感
- チアノーゼ
- 頻脈・不整脈
- 血圧低下
- 心タンポナーデの徴候
- パラメーターの変動(CI低下、CVP変動)
僧帽弁術後の合併症
術後は何に気を付ければいいんだろう・・・
僧帽弁の術後は血流障害が無くなるけど、低下した心機能はすぐには戻らないから術後管理が大切になってくるんだよ!
僧帽弁狭窄症(MS)の合併症
術後は弁の狭窄が無くなり血液流入がスムーズとなり左心室に前負荷がかかり、血圧が上昇しやすいです。血圧が高くなると手術した弁への負荷がかかることで弁破壊や損傷などのトラブルを起こすことがあります。心負荷に注意しながら水分管理や血圧コントロールがポイントになってきます。術後の右心不全についても注意して管理していきましょう。
僧帽弁閉鎖不全症(MR)の合併症
術後は左心房への血液の逆流がなくなります。心機能が維持されている場合は血圧が高くなることがあるため血圧コントロールが重要です。一方で左心室の拡大がある場合は心拍出量を維持するためにある程度容量負荷が必要となります。心機能低下や遠心性肥大がある場合はLOSが起きやすいため水分管理が特に重要です。
僧帽弁の術後の看護ポイント
血圧コントロール
高血圧になると修復部に圧がかかり弁損傷の原因となるため低めに血圧コントロールを行います。血圧上昇を伴うケアを行った際にはドレーンの排液量や性状に注意して再出血や心タンポナーデの兆候がないか観察が必要です。
in-outバランス
術後は左心室の容量負荷によりLOSを起こしやすいためドライな水分管理が必要ですが、左心室の拡大がある場合はある程度容量負荷も必要となってきます。心拍出量を維持できるようパラメーターの管理や尿量の確認を行い、適切な前負荷の調整が必要です。
不整脈に注意
心房細動
心房細動に注意が必要です。術前の左房負荷の影響から心房細動を併発している患者が多いです。心房細動だけでは致死性になりにくいですが、術後の心房細動は有効な心拍出量を減少させる原因となり、術後の血行動態の改善が阻害されます。また、頻脈になると冠血液量が減少して心筋酸素消費量も増加するため心不全を増悪させる原因にもなります。
房室接合部性調律
術操作により洞結節への血流が障害され術後徐脈になることもあります。多くは房室接合部性調律(ジャンクショナルリズム)となり洞結節機能の回復までペーシングを利用します。
- 手術前はaf・右心不全に注意する
- 血圧を低めに保ち、弁への負担を軽くする
- 左心室への前負荷が急激に増大による低心拍出量症候群(LOS)に注意。適切な水分管理を行う
参考文献
ICU3年目ナースのノート
心臓血管外科の術後管理と看護
患者が見える新しい「病気の教科書」かんてき 循環器