明日はAVRをした人を受け持ってねって言われたけど何のことだろう・・・。
AVRの術後は、AS,ARに対して行う手術だよ!明日の患者さんはどの疾患かな?
AS、AR??どこかできいたような・・・。同じ手術をしているのに、疾患を気を付ける必要があるんですか?
この記事では大動脈弁置換術の看護と術後管理についてまとめていきます。
AVRや大動脈弁疾患の病態生理や術後管理についてよくわからないという方は是非ご覧ください。
大動脈弁置換術(AVR)とは?
大動脈弁の疾患では主に大動脈弁置換術(AVR)を行うのが一般的です。
AVRとは左心室と大動脈の間にある大動脈弁を取り換える手術のことを言います。大動脈弁は弁形成術後にどれくらいの確率で再発するか知られていないため、弁置換術が主流となっています。
僧帽弁の手術の時はMVP(僧帽弁形成術)の方がメリットがあったけど、大動脈弁ではAVRが一般的になるよ。
弁の損傷が最低限の場合は大動脈弁形成術を行っている施設もあります。
大動脈弁狭窄症(AS)・大動脈弁逆流症(AR)の違い
大動脈弁狭窄症(AS)の特徴
病態生理
ASとは大動脈弁が開きにくいことで、左室から十分な血液を送り出すことができなくなる状態です。弁が狭窄しているため狭い大動脈に血液を送ろうと左心室に強い抵抗が生じます。強い抵抗に負けないよう左心室の内側の筋肉が発達して厚くなっていきます(求心性肥大)。内側に向かって筋肉が肥厚していくため、左室内は狭くなっていきます。左心室が狭くなり、血液の入る量はどんどん減っていくため1回拍出量は減少していきます。減少した拍出量を補うため頻脈になります。
ASは僧帽弁疾患と異なり、すぐに呼吸苦などの症状が出現しません。長期間無症状で経過するため、症状が生じた際には予後はかなり不良であり突然死もありえます。
症状① 大動脈弁狭窄症の3大症状 胸痛・失神・心不全に注意!
胸痛
求心性肥大により心筋が働く力が増えるため酸素需要量が増大します。一方で、狭い左心室であるため十分な血液を送り出せず酸素の供給が減ってしまいます。酸素が足りなくなるため冠動脈狭窄が無くても心筋虚血が生じ、左室収縮・拡張不全に進行してしまいます。
失神・めまい
心拍出量低下に伴う脳血流低下によって生じます。
心不全
末期では左室収縮・拡張不全が生じることで左房圧の上昇、左室駆出率と心拍出量の低下を認めます。左房圧の上昇により肺うっ血となり労作時の息切れが生じます。
症状② 脱水に注意!
薬物療法では軽快することはありません。心不全が起こらないように治療したり、狭心症状の治療のため血管拡張薬を使用するしかありません。しかし、利尿をかけすぎると左心室の容量は低下しているためすぐに心拍出量が低下し、血圧低下になってしまいます。
大動脈弁狭窄症の症状をまとめるよ!
大動脈弁閉鎖不全症の(AR)の特徴
病態生理
大動脈弁が完全に閉まらないため、拡張期に血液の一部が大動脈から左心室内に血液が逆流してくるのが大動脈弁閉鎖不全症(AR)です。血液が逆流して戻ってくるため、左心室の容量が増えて負荷がかかります。長期間この状態であると、筋肉が引き延ばされてしまい遠心性肥大となり、左室の収縮力が低下してしまいます。長期間無症状で経過しますが、狭心症症状出現後は余後が約4年、心不全症状が出現すると約2年と言われています。
症状 左心不全に注意
左室に容量負荷がかかるため、初期では左室は1回拍出量を増加させることで代償します。しかし、遠心性肥大により徐々に心機能が低下し、代償が破綻することで左心不全を招きます。急性の発症では、大動脈解離などで急な弁輪の拡大が生じることで左心不全を生じます。
大動脈弁置換術後(AVR)の看護のポイント
低心拍出量症候群(LOS)に注意した水分管理
低心拍出量とは、心機能低下や脱水により循環血液量が少なくなることで生じ、心係数2.2L/min/m2以下の場合をいいます。AVR術後では手術の侵襲に加えて長期のASやARにより術前から心機能が低下しているためLOSを併発しやすいです。また、低心拍出量により低血圧や臓器に必要な血液がいきわたらないため多臓器不全を起こすことがあるため末梢循環不全の症状の早期発見が大切です。
不整脈を見逃さない
術後は約60%に心房細動を起こすといわれています。心房細動では心拍出量が低下するため早期発見に努める必要があります。また、大動脈弁術では、術操作によりヒス束へ影響を及ぼすことから房室ブロックとなる可能性が高くなります。1回の心拍出量が少ないため、徐脈では心拍出量を維持できません。心拍出量を維持するためには心拍数のコントロールが必要になるため、必要時術後はペースメーカーを使用し洞調律を維持します。
血圧コントロール
術後の出血予防には血圧コントロールが重要です。血圧が高いと弁へ負担がかかり、弁損傷や出血の原因となります。また、AVRでは人工心肺の使用により凝固能低下を招くため出血に十分な注意が必要となります。
脳血管障害の合併症に注意
人工心肺を使用していることや心房細動を併発しやすい血管であることから、塞栓症に注意する必要があります。術直後から意識レベルや神経学的所見を観察し麻痺の有無を確認してください。
大動脈弁狭窄症の術後管理の特徴
左室の求心性肥大に伴う1回拍出量の低下と心筋弾力性の低下がある
術前の左心室肥大は術後すぐには戻りません。そのため、心拍出量を保つため十分な前負荷(PAWP15以上)と心拍数の維持が必要となります。一方で、左心室のコンプライアンス(柔軟性)低下に伴い、前負荷が大きいと心不全の原因となるため水分管理が必要になります。
術後の頻脈は循環血液量の低下や不整脈を誘発します。不整脈出現では左心室肥大により、心拍出量を維持できないことから迅速な治療が必要です。
大動脈弁逆流症の術後管理の特徴
左心室の遠心性肥大による収縮力低下がある
容量負荷を軽減して心拡大を改善する必要がありますが、急に減らすと左室の内腔が大きくなっているため、駆出できなくなります。左室拡張期の容量が不足するとPVC、VTが出現しやすくなります。そのため、ある程度のボリュームが必要ですが、ポンプ機能が低下しているため容易に左心不全になってしまうので注意が必要です。CIが低下しない程度のマイナスバランスで管理していく必要があります。
心機能が低下していない場合は、内腔が拡大しているために心拍出量が増えるため血圧が上がりやすいです。
経動脈カテーテル大動脈弁留置術 TAVI術後の管理
TAVIは低侵襲ではありますが、全く合併症がないわけではありません。循環管理はAVRの術後管理と同様ですが、ここではTAVIに特徴的な合併症を挙げます。
- 血管損傷:デバイスの挿入による血管損傷の可能性があるため、出血や仮性動脈瘤に注意します。
- 弁輪部破壊:弁輪部でバルーンを拡張するため、弁輪部へ圧がかかることで裂けることがあります。
- 冠動脈閉塞:弁を留置した際に冠動脈の入り口を防いでしまうことで起こります。
- 脳合併症:術中のカテーテル操作により生じる。術後は循環動態だけでなく、神経学的な所見に注意が必要です。
- 伝達障害:術操作によって刺激伝導系に負荷がかかることで術後に高度房室ブロックが起こる可能性が高いです。術後は体外式ペースメーカーによるバックアップを行います。
参考文献
患者が見える新しい病気の教科書 循環器
ICU3年目ナースのノート
心臓血管外科の術後と看護
まるごと図鑑 循環器疾患